随想舎が、東京新聞2015年11月18日朝刊で紹介されました。

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宇都宮の出版社「随想舎」 栃木に根差して30年

田中正造と足尾鉱毒事件、渡良瀬遊水地など栃木県で地域に根差した特色ある本を出し続ける出版社「随想舎」(宇都宮市本町)が今年創立から30年の節目を迎えた。出した本は450点で平均年間15点ほどだが、社長の卯木(うき)伸男さん(57)は「これからも売れる本より売りたい本、読み捨てられない本を企画していきます」と決意を示した。 (小寺勝美)
宇都宮市生まれの卯木さんの原点は大学四年間を過ごした長野県にある。出版文化の盛んな地域で、長野や松本、上田、飯田など主要都市すべてに出版社があり、県内十五社ほどになるという。「どこの書店にも郷土出版の棚があってカルチャーショックでした」。卒業後、宇都宮に戻ったものの出版社はなく、印刷会社に入った。
一九八五年、卯木さんは友人の小川修二さん(67)=現会長=と市内で畳屋二階の三十三平方メートルほどの倉庫を借り、随想舎を始めた。家賃は一万五千円。二人で十五万円ずつ出し合ってワープロを買う。ほかには定規やカッターナイフなど文房具だけ。スポンサーも余分の資金もなかった。「六年の印刷会社勤めで業界関係者と知り合い、印刷代や紙代を現金払いせずに済みました」
単行本の出版第一号は八七年。戦前の阿久津村(現高根沢町)で起こった全国労農大衆党と大日本生産党の武力衝突事件を掘り起こした「曙光」。それまで「依頼の記念誌や社史づくりのほかチラシも作りました」。同時に自分たちから情報を発信していこうと隔月で「あの町この街」という無料配布の冊子を出し、史跡や文化財巡りを行った。
この中で知り合った若手の歴史、民俗研究者が関わった月刊ミニコミ誌「うつのみや重宝記」を出すことになり、本格的な「栃木県歴史文化研究会」の発足につながった。会の研究成果発表の場である「歴史と文化」を年一回制作・発売、会の十周年に「随想舎歴文研出版奨励賞」を創設し研究者を発掘している。「人文系研究書を県内出版社で出せる」という評価が生まれ、さらに著者の広がりとなった。歴史・民俗関係のほか大きな柱の一つである栃木の山シリーズは累計で五万部に達している。
出版不況が言われて久しく「今、単行本は一千部売るのが大変な時代。独自の企画出版と編集プロダクションとしての受託制作が車の両輪」という。県内に出版社がない時代は研究者らに「文化不毛の地」などと嘆く声があったが「先人が県を舞台に切り開いてきた全ては出版に値する」と卯木さん。そして「東京の大手はいわば狩猟民で大きく網を打って獲物を捕るが、私たちは種をまいて成長を待つ農耕民です」と話す。随想舎は電028(616)6605。